音の物理 短編教科書

波動方程式と音速

空気の小さな塊にニュートンの運動方程式を当てはめるだけで、音の速さと伝わり方が導ける

はじめに:この教科書で得るもの

この教科書のゴールは、空気の小さな塊にニュートンの運動方程式を当てはめるだけで「音は約 343 m/s で、形を崩さずに伝わる」ことを導くことです。音の正体は、空気の塊が隣の塊に押されて揺れる、その連鎖です。

使う物理の材料は3つだけです。

  1. 力:圧力の差が空気を押す(第2章)
  2. 連続の式:空気が縮むと密度が上がる(第3章)
  3. 状態方程式:密度が上がると圧力が上がる(第5章)

この3つを第4章でつなぐと、次の波動方程式ができます。第6章でその解(ダランベールの解)を読み解き、第7章で途中の微分・2回微分が何を意味していたかを整理します。

∂2u∂t2=c2∂2u∂x2,c=dpdρ≈343 m/s\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}, \qquad c = \sqrt{\frac{dp}{d\rho}} \approx 343\ \mathrm{m/s}
3つの物理法則をつなぐと波動方程式になる第2章 力圧力の差が空気を押すρ₀ ∂²u/∂t² = −∂p/∂x第3章 連続の式縮むと密度が上がるρ = ρ₀(1 − ∂u/∂x)第5章 状態方程式密度が上がると圧力も上がるdp/dρ = c²(断熱変化)第4章 チェーンルールでつなぐ∂p/∂x = (dp/dρ)・(∂ρ/∂x)波動方程式∂²u/∂t² = c² ∂²u/∂x²加速度 = c² × 曲がり具合(第7章)第6章 ダランベールの解u = f(x − ct) + g(x + ct)
導出の流れ:3つの法則 → 波動方程式 → 解

上の3つはそれぞれ独立した物理の事実で、第4章のチェーンルールがそれらを1本の式にまとめます。

第1章 準備:登場する量と、その大きさ

音は「大きな静止状態の上に乗った、ごく小さな揺らぎ」です。94 dB の大きな音でも、音圧 1 Pa は大気圧の約10万分の1しかありません。この「小ささ」が、あとで近似を使える根拠になります。

記号 意味 単位 空気での目安(20°C)
x 静止しているときの空気の位置 m —
u(x, t) 位置 x の空気が、時刻 t にずれている量(変位) m 94 dB・1 kHz で約 0.5 μm
ρ₀ 静止時の密度 kg/m³ 1.2
ρ(x, t) その瞬間の密度 kg/m³ ρ₀ ± 0.00001 程度
P₀ 大気圧(一定) Pa 101,325
P(x, t) 全圧 = P₀ + p Pa —
p(x, t) 音圧(全圧のうち変動している分) Pa 94 dB で 1 Pa、0 dB で 0.00002 Pa
S 考える空気の柱の断面積 m² 最後に消える
c 音速 m/s 343
空気の柱は、左端と右端のずれ方が違うと厚さが変わるxxx + Δxt = 0静止時S断面積Δxu(x, t)u(x + Δx, t)時刻 t空気がずれたΔx − [−u(x + Δx, t) + u(x, t)]ずれた後の厚さ中の空気の質量は変わらないので、厚さが増えれば密度は下がり、減れば上がる(第3章)
変位 u と、空気の柱の伸び縮み

ここで注意したいのは、u は「波」ではなく「空気そのもの」の動きだということです。空気はその場で前後に 0.5 μm ほど揺れるだけで、どこかへ流れていくわけではありません。遠くまで 343 m/s で進むのは「揺れのパターン」の方です。空気の揺れる向きと波の進む向きが同じなので、音は縦波です。

第2章 力:圧力の「差」が空気を動かす

結論:空気の塊を動かすのは圧力そのものではなく、左右の圧力の差(圧力勾配)です。そのため大気圧 P₀ は計算から消え、音圧 p だけが残ります。

空気の薄い板を考える

断面積 S の管の中で、静止時に x から x + Δx までを占める薄い空気の板を考えます。体積は SΔx、質量は ρ₀SΔx です。この質量は、板がどう動いても変わりません。

右向きを正とすると、板が受ける力の合計は次のとおりです。

ΔF=S [−P(x+Δx)+P(x)]=S [−(P0+p(x+Δx))+(P0+p(x))]=S [−p(x+Δx)+p(x)]\Delta F = S\,[-P(x+\Delta x) + P(x)] = S\,[-(P_0 + p(x+\Delta x)) + (P_0 + p(x))] = S\,[-p(x+\Delta x) + p(x)]

P₀ が打ち消し合うので、全圧で書いても音圧で書いても同じ力になります。教科書によって書き方が2通りあるのはこのためです。

運動方程式にする

「質量 × 加速度 = 力」に当てはめます。加速度は変位 u を時間で2回微分したものです。

ρ0SΔx ∂2u∂t2=S [−p(x+Δx)+p(x)]\rho_0 S \Delta x \, \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = S\,[-p(x+\Delta x) + p(x)]

両辺を SΔx で割り、Δx → 0 とします。−p(x+Δx)+p(x) は「x から少し右へ進んだとき、圧力がどれだけ下がったか」なので、Δx で割ると傾き ∂p/∂x の符号を反転したもの、つまり −∂p/∂x になります:

ρ0∂2u∂t2=−p(x+Δx)+p(x)Δx  ⟶  −∂p∂x\rho_0 \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = \frac{-p(x+\Delta x) + p(x)}{\Delta x} \;\longrightarrow\; -\frac{\partial p}{\partial x}

この式が言っていること

空気は、圧力の傾きと逆向きに押されるある瞬間の音圧 p の分布。色付きの直線は各点での接線で、その傾きが ∂p/∂xp(音圧)x(位置)0低圧(谷)A 高圧(山)BΔxΔpC空気が受ける力A:傾き 0力 0(釣り合い)B:傾きが負右へ押されるC:傾きが正左へ押される力の向き = −∂p/∂x の向き(傾きと逆)。いつも高圧側から低圧側へ押される
音圧の分布と接線:3つの点での傾きと力の向き

B では右へ行くほど圧力が下がる(傾きが負)ので、左の高圧側に押されて右へ加速します。C はその逆です。A のように傾きが 0 の点では左右の圧力が釣り合い、力は 0 です。94 dB・1 kHz の例では、B での傾きは約 −26 Pa/m です。

音波が伝わるときの空気の動きと左右の圧力差
音波が伝わるときの空気の動きと左右の圧力差

上のアニメーションは、上のグラフを時間とともに動かしたものです。オレンジの空気の層に注目すると、左の圧力が高いときは右へ、右の圧力が高いときは左へ押され、その場で前後に揺れ続けます。密(高圧)や疎(低圧)の真ん中に来た瞬間は、左右の圧力が釣り合って力は 0 になります。

数字で見る

94 dB・1 kHz の音(音圧のピーク約 1.4 Pa、波長 34.3 cm)では、圧力勾配のピークは約 26 Pa/m です。これを ρ₀ = 1.2 で割ると、加速度は約 21 m/s²。重力加速度の約2倍です。それでも空気が 0.5 μm しか動かないのは、1秒に1000回も向きが反転するからです。

第3章 連続の式:変位の「傾き」が密度を決める

結論:密度を決めるのは変位 u そのものではなく、u の傾き ∂u/∂x(どれだけ引き伸ばされたか)です。

板の厚さの変化

第2章の板は、静止時には厚さ Δx でした。空気がずれると、両端はそれぞれ次の位置に移ります。

なので新しい厚さ(右端の位置 − 左端の位置)は次のようになります。−u(x+Δx)+u(x) は「左端が右端よりどれだけ多くずれたか」で、正なら板は縮み、負なら伸びます:

Δx−[−u(x+Δx)+u(x)]≈Δx−(−∂u∂x Δx)=Δx(1+∂u∂x)\Delta x - [-u(x+\Delta x) + u(x)] \approx \Delta x - \left(-\frac{\partial u}{\partial x}\,\Delta x\right) = \Delta x \left(1 + \frac{\partial u}{\partial x}\right)

質量は変わらない

板の中の空気の量(質量)は、伸びても縮んでも同じです。「静止時の質量 = 今の質量」とおくと:

ρ0SΔx=ρ SΔx(1+∂u∂x)⟹ρ=ρ01+∂u/∂x≈ρ0(1−∂u∂x)\rho_0 S \Delta x = \rho\, S \Delta x \left(1 + \frac{\partial u}{\partial x}\right) \quad\Longrightarrow\quad \rho = \frac{\rho_0}{1 + \partial u / \partial x} \approx \rho_0 \left(1 - \frac{\partial u}{\partial x}\right)

最後の ≈ は、小さな数 ε に対して 1/(1 + ε) ≈ 1 − ε となる近似です。音では ∂u/∂x が非常に小さいので、ほぼ誤差なく使えます。

この式が言っていること

数字で見る

94 dB・1 kHz では、∂u/∂x のピークは約 0.00001 です。つまり空気は10万分の1だけ伸び縮みしていて、密度の変化は 1.2 × 0.00001 ≈ 0.000012 kg/m³ になります。第1章で「小さな揺らぎ」と言ったのは、この大きさのことです。

第4章 チェーンルールで波動方程式を導く

結論:第2章(力)と第3章(密度)を「圧力は密度で決まる」という関係でつなぐと、変位 u だけの方程式、つまり波動方程式になります。

問題点:式の言葉がそろっていない

第2章の運動方程式には圧力 p が、第3章には密度 ρ が出てきます。このままでは組み合わせられません。そこで「圧力は密度の関数 p(ρ)」と考えて、p の変化を ρ の変化に言い換えます。

チェーンルール(連鎖律)

分母と分子に同じ量 [−ρ(x+Δx)+ρ(x)] を掛けて割ります。値は何も変わっていません。

ρ0∂2u∂t2=−p(x+Δx)+p(x)Δx=−p(x+Δx)+p(x)−ρ(x+Δx)+ρ(x)×−ρ(x+Δx)+ρ(x)Δx\rho_0 \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = \frac{-p(x+\Delta x) + p(x)}{\Delta x} = \frac{-p(x+\Delta x) + p(x)}{-\rho(x+\Delta x) + \rho(x)} \times \frac{-\rho(x+\Delta x) + \rho(x)}{\Delta x}

Δx → 0 とすると、1つ目の分数は「密度が変わったときの圧力の変わり方」dp/dρ に、2つ目は −∂ρ/∂x になります。これは合成関数の微分そのものです。

−p(x+Δx)+p(x)Δx  ⟶  −∂p∂x=−dpdρ⋅∂ρ∂x\frac{-p(x+\Delta x) + p(x)}{\Delta x} \;\longrightarrow\; -\frac{\partial p}{\partial x} = -\frac{dp}{d\rho} \cdot \frac{\partial \rho}{\partial x}

「x が変わると ρ が変わり、ρ が変わると p が変わる」という2段階の変化を、掛け算でつないでいます。

連続の式を代入する

第3章の ρ = ρ₀(1 − ∂u/∂x) を x で微分すると、ρ₀ は定数なので:

∂ρ∂x=−ρ0∂2u∂x2\frac{\partial \rho}{\partial x} = -\rho_0 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}

これを運動方程式に入れると、マイナスとマイナスが打ち消し合います。

ρ0∂2u∂t2=−dpdρ(−ρ0∂2u∂x2)⟹∂2u∂t2=dpdρ ∂2u∂x2\rho_0 \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = -\frac{dp}{d\rho} \left(-\rho_0 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}\right) \quad\Longrightarrow\quad \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = \frac{dp}{d\rho}\, \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}

dp/dρ は静止状態(ρ = ρ₀)での値を使うので定数です。単位は Pa ÷ (kg/m³) = (m/s)² で、速さの2乗になっています。そこで c² = dp/dρ とおくと、波動方程式が完成します。

∂2u∂t2=c2∂2u∂x2\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}

この式が言っていること

おまけ:音圧と変位の関係

密度の変化が小さいとき、p ≈ (dp/dρ)(ρ − ρ₀) = c²(ρ − ρ₀) です。第3章の式を使うと:

p=−ρ0c2∂u∂xp = -\rho_0 c^2 \frac{\partial u}{\partial x}

マイクが拾う音圧は、空気の変位ではなく「変位の傾き(ひずみ)」に比例している、ということです。

進行波では、音圧と粒子速度が比例する

右へ進む波 u = f(x − ct) では、∂u/∂t = −c f'、∂u/∂x = f' なので、∂u/∂x = −(1/c) × ∂u/∂t です。これを上の式に入れると:

p=−ρ0c2∂u∂x=ρ0c ∂u∂tp = -\rho_0 c^2 \frac{\partial u}{\partial x} = \rho_0 c \, \frac{\partial u}{\partial t}

音圧と粒子速度は同じ形で動き、その比 ρ₀c(空気で約 413 Pa·s/m)でつながっています。一方、変位 u は 1/4 周期遅れて動きます。

同じ場所で見た変位・粒子速度・音圧の動き
同じ場所で見た変位・粒子速度・音圧の動き

第5章 音速と断熱:dp/dρ = c² の中身

結論:音の圧縮は速すぎて熱が逃げる暇がない(断熱変化)ので、dp/dρ = γP₀/ρ₀ ≈ 118,000 (m/s)² となり、音速は 343 m/s になります。

小さい量 ÷ 小さい量でも、比は大きい

94 dB の音では、音圧の変化が約 1 Pa、密度の変化は約 0.0000085 kg/m³ です。どちらも小さいですが、比をとると:

dpdρ≈1 Pa0.0000085 kg/m3≈118,000 (m/s)2≈3432\frac{dp}{d\rho} \approx \frac{1\ \mathrm{Pa}}{0.0000085\ \mathrm{kg/m^3}} \approx 118{,}000\ \mathrm{(m/s)^2} \approx 343^2

空気は「軽い(1.2 kg/m³)のに、圧力は大きい(約10万 Pa)」媒質です。ほんの少し密度を変えるだけで、圧力が大きく跳ね返ってきます。この「跳ね返りの強さ」が dp/dρ です。

ニュートンの計算はなぜ15%ずれたか

dp/dρ の値は、空気が縮むときに温度がどうなるかで変わります。

仮定 圧力と密度の関係 dp/dρ 音速
等温変化(ニュートン, 1687年) P ∝ ρ P₀/ρ₀ ≈ 84,400 (m/s)² 約 290 m/s
断熱変化(ラプラス, 1816年) P ∝ ρ^γ γP₀/ρ₀ ≈ 118,000 (m/s)² 約 343 m/s
実測(20°C) — — 約 343 m/s

ニュートンは「縮めても温度は変わらない」と考えました。しかし実際には、空気は縮むと温まり、温まった分だけ圧力がさらに上がります。そのぶん空気は「硬く」なり、音は速くなります。γ は空気(主に2原子分子の窒素と酸素)で 1.4 です。

dp/dρ = γP/ρ の求め方(ポアソンの式)

断熱変化では、ポアソンの式 Pv^γ = 一定 が成り立ちます。v は単位質量あたりの体積(比体積)で、v = 1/ρ です。よって P ∝ v^(−γ) ∝ ρ^γ であることがわかります。

Pvγ=一定⟹P∝v−γ∝ργP v^{\gamma} = \text{一定} \quad\Longrightarrow\quad P \propto v^{-\gamma} \propto \rho^{\gamma}

比例定数を k として P = kρ^γ とおき、ρ で微分します。

dpdρ=γkργ−1=γ×kργρ=γ×Pρ\frac{dp}{d\rho} = \gamma k \rho^{\gamma - 1} = \gamma \times \frac{k \rho^{\gamma}}{\rho} = \gamma \times \frac{P}{\rho}

これを c = √(dp/dρ) に代入すると、c = √(γP/ρ) が求められます。P = P₀ + p で P₀ は一定なので、dp/dρ と dP/dρ は同じ値です。静止状態の値 P₀ = 101,325 Pa、ρ₀ = 1.2 kg/m³ を入れると:

c=dpdρ=γ×P0ρ0=1.4×101,3251.2≈343 m/sc = \sqrt{\frac{dp}{d\rho}} = \sqrt{\gamma \times \frac{P_0}{\rho_0}} = \sqrt{\frac{1.4 \times 101{,}325}{1.2}} \approx 343\ \mathrm{m/s}

(参考:等温変化なら γ = 1 と同じ形 P ∝ ρ になり、ニュートンの値 √(P₀/ρ₀) ≈ 290 m/s が出ます。)

なぜ断熱なのか(数字で確認)

1 kHz の音では、圧縮された部分の幅(半波長)は約 17 cm です。一方、空気中で熱が広がる距離は、半周期の 0.5 ms のあいだに約 0.1 mm しかありません。熱が隣へ逃げる前に、もう圧縮と膨張が入れ替わってしまうので、断熱として扱えます。

音速は温度で決まる

結論:音速の式 c = √(γRT/M) に T = 273 + t を入れ、t が 273 より十分小さいことを使って近似すると、c ≈ 331 + 0.6t が得られます。

① γ の値(比熱比)

γ は定圧モル比熱 Cp と定積モル比熱 Cv の比です。空気の主成分(窒素・酸素)は2原子分子なので、Cv = (5/2)R、Cp = Cv + R = (7/2)R です。

γ=CpCv=72R÷52R=75=1.4\gamma = \frac{C_p}{C_v} = \frac{7}{2}R \div \frac{5}{2}R = \frac{7}{5} = 1.4

② 密度を物質量で書く

体積 V(m³)の中に n(mol)の空気があるとします。空気のモル質量を M = 28.8 × 10⁻³ kg/mol とすると、質量は nM なので:

ρ=nMV⋯①\rho = \frac{nM}{V} \qquad \cdots \text{①}

③ 状態方程式で P と V を消す

c = √(γP/ρ) に①を代入し、理想気体の状態方程式 PV = nRT を使います。

c=dpdρ=γPρ=γPVnM=γ nRTnM=γRTMc = \sqrt{\frac{dp}{d\rho}} = \sqrt{\gamma \frac{P}{\rho}} = \sqrt{\frac{\gamma P V}{n M}} = \sqrt{\frac{\gamma\, nRT}{n M}} = \sqrt{\frac{\gamma R T}{M}}

n は約分されて消え、P も V も残りません。√(γRT/M) は、音速が温度 T だけで決まる(温度依存性)ことを表しています。

④ セルシウス温度に直す

T(K)= 273 + t(°C)を代入し、273 をくくり出します。

c=γR(273+t)M=γR×273M×1+t273c = \sqrt{\frac{\gamma R (273 + t)}{M}} = \sqrt{\frac{\gamma R \times 273}{M}} \times \sqrt{1 + \frac{t}{273}}

前半は 0°C での音速 c₀ です。R = 8.31 J/(mol·K) を入れると:

c0=1.4×8.31×27328.8×10−3≈332 m/sc_0 = \sqrt{\frac{1.4 \times 8.31 \times 273}{28.8 \times 10^{-3}}} \approx 332\ \mathrm{m/s}

(モル質量をより正確な 28.96 × 10⁻³ kg/mol にすると約 331 m/s になり、実測値 331.5 m/s とよく合います。以下では c₀ = 331 m/s とします。)

⑤ t ≪ 273 を使って近似する

普段の気温 t は数十 °C で、273 より十分小さいので、x = t/273 は小さな数です。小さな x に対しては次の近似が使えます。

1+x≈1+x2(∵ (1+x2)2=1+x+x24≈1+x)\sqrt{1 + x} \approx 1 + \frac{x}{2} \qquad \left(\because\ \left(1 + \frac{x}{2}\right)^2 = 1 + x + \frac{x^2}{4} \approx 1 + x\right)

x = t/273 を入れると:

c≈c0(1+t2×273)=c0+c0546 t=331+331546 t≈331+0.6 tc \approx c_0 \left(1 + \frac{t}{2 \times 273}\right) = c_0 + \frac{c_0}{546}\, t = 331 + \frac{331}{546}\, t \approx 331 + 0.6\, t

⑥ 近似の精度

気温 t 正確な値 331√(1 + t/273) (m/s) 近似 331 + 0.6t (m/s)
−10°C 324.9 325.0
0°C 331.0 331.0
20°C 342.9 343.0
40°C 354.4 355.0

普段の気温の範囲では、近似の誤差は 1 m/s 以下です。

他の媒質との比較

液体では「体積弾性率 K(縮めにくさ)」を使って c = √(K/ρ) と書きます(固体では「ずれ」への硬さも加わりますが、考え方は同じです)。K = ρ × dp/dρ なので、中身は同じです。

媒質 密度 (kg/m³) 音速 (m/s, 目安)
空気(20°C) 1.2 343
ヘリウム(20°C) 0.17 約 1000
水 1000 約 1480
鉄 7900 約 5900

水は空気の約800倍重いのに音は4倍速く伝わります。それ以上に「縮めにくい(K が大きい)」からです。音速は硬さと重さの綱引きで決まります。

第6章 ダランベールの解:どんな形も、崩れずに運ばれる

結論:波動方程式の解は、右へ進む形 f と左へ進む形 g の足し算で必ず書けます。どちらも速さ c で、形を保ったまま移動します。

u(x,t)=f(x−ct)+g(x+ct)u(x, t) = f(x - ct) + g(x + ct)

f は「最初の形」

g がない場合(右向きの波だけ)を考えます。t = 0 では u(x, 0) = f(x) なので、f は t = 0 での波の形そのものです。

グラフ y = f(x) を右へ a だけずらすと y = f(x − a) になります。時刻 t には ct だけ進んでいるので、f(x − ct) は「最初の形を右へ ct 平行移動したもの」です。たとえば t = 0 に x = 0 にあった山は、時刻 t には x − ct = 0、つまり x = ct にあります。

形を保ったまま進む波
形を保ったまま進む波

灰色の点線が最初の形 f(x)、黒が時刻 t の形 f(x − ct) です。形は一切変わらず、ct だけ右へずれていきます。

本当に解になっているか確かめる

ξ = x − ct とおき、チェーンルールで微分します(f' は f を ξ で微分したもの)。

∂u∂t=−c f′(ξ),∂2u∂t2=c2f′′(ξ)\frac{\partial u}{\partial t} = -c\, f'(\xi), \qquad \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 f''(\xi)
∂u∂x=f′(ξ),∂2u∂x2=f′′(ξ)\frac{\partial u}{\partial x} = f'(\xi), \qquad \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} = f''(\xi)

よって ∂²u/∂t² = c² ∂²u/∂x² が成り立ちます。この計算のどこにも「f が正弦波であること」は使っていません。f はどんな形でもよいのです。g(x + ct) も同じように確かめられます。

最初の状態から解を決める

最初の変位 u₀(x) と最初の速度 v₀(x) が分かれば、f と g が決まり、次の式(ダランベールの公式)になります。

u(x,t)=u0(x−ct)+u0(x+ct)2+12c∫x−ctx+ctv0(s) dsu(x, t) = \frac{u_0(x - ct) + u_0(x + ct)}{2} + \frac{1}{2c} \int_{x - ct}^{x + ct} v_0(s)\, ds

例:止まっている空気に、ある場所だけ山形の変位を与えて離すと(v₀ = 0)、山は高さ半分ずつの2つに分かれて、左右に c で進みます。廊下で手を叩くと、音が両方向へ同じように広がるのと同じです。

最初の山が2つに分かれて左右へ進む
最初の山が2つに分かれて左右へ進む

薄い色の2つの山(右へ進む f と左へ進む g)を足したものが黒の線です。重なっている最初は高さ 1、離れると高さ 1/2 の山が2つになります。

正弦波は特別な場合

f = A sin k(x − ct) とおくと、おなじみの正弦波になります。k(波数)、角周波数 ω、周波数 f(関数の f とは別の記号です)、波長 λ の関係は:

ω=ck,λ=cf\omega = c k, \qquad \lambda = \frac{c}{f}
周波数 波長(c = 343 m/s)
20 Hz 17 m
100 Hz 3.4 m
1 kHz 34.3 cm
20 kHz 1.7 cm

音楽制作とのつながり

第7章 微分・2回微分は何を意味しているのか

結論:時間で微分すると「動きの速さ・加速」、場所で微分すると「隣との差(傾き・曲がり)」が分かります。波動方程式は「加速度 = c² × 曲がり具合」という意味です。

∂ と d の違い

u(x, t) は位置と時間の2つの変数を持ちます。∂u/∂t は「x を固定して、t だけ動かしたときの変化」、∂u/∂x は「t を固定して(写真を1枚撮って)、x だけ動かしたときの変化」です。p(ρ) のように変数が1つなら d を使います。

登場した微分の一覧

式 言葉で 単位 音での意味 94 dB・1 kHz での大きさ(ピーク)
∂u/∂t 粒子速度 m/s 空気がその場で揺れる速さ。音速 c とは別物 約 3.4 mm/s
∂²u/∂t² 加速度 m/s² 運動方程式の左辺 約 21 m/s²
∂u/∂x ひずみ(伸び率) なし 密度変化と音圧を決める(p = −ρ₀c² ∂u/∂x) 約 0.00001
∂²u/∂x² 曲がり具合 1/m 隣と比べてどれだけ凹んでいるか —
∂p/∂x 圧力勾配 Pa/m 空気を押す力(単位体積あたり) 約 26 Pa/m
dp/dρ 縮めにくさ ÷ 重さ (m/s)² 音速の2乗 c² 118,000

粒子速度 3.4 mm/s と音速 343 m/s は、約10万倍も違います。空気はゆっくり揺れているだけで、速いのは「揺れの伝わり方」です。

「曲がり具合」とは何か

結論:曲がり具合 ∂²u/∂x² は「傾きが場所によってどれだけ変わるか」です。物理的には「ある空気の塊の、右側と左側の圧力の差」を表しています。

グラフの言葉で

1回微分 ∂u/∂x はグラフの傾きでした。2回微分は、その傾きをもう一度微分したもの、つまり「傾きの変化率」です。点 x の右側と左側の傾きを比べると:

右側の傾き=−[−u(x+Δx)+u(x)]Δx,左側の傾き=−[−u(x)+u(x−Δx)]Δx\text{右側の傾き} = \frac{-[-u(x+\Delta x) + u(x)]}{\Delta x}, \qquad \text{左側の傾き} = \frac{-[-u(x) + u(x-\Delta x)]}{\Delta x}
∂2u∂x2≈右側の傾き−左側の傾きΔx\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \approx \frac{\text{右側の傾き} - \text{左側の傾き}}{\Delta x}
グラフの形 傾きの変わり方 ∂²u/∂x²
まっすぐ(直線) 右も左も同じ傾き 0(曲がっていない)
谷の形(∪、下に凸) 右へ行くほど傾きが増える 正
山の形(∩、上に凸) 右へ行くほど傾きが減る 負

つまり曲がり具合とは、グラフが「まっすぐ」からどれだけ外れているか、そしてどちら向きに曲がっているか、を表す量です。

物理の言葉で

第4章のおまけで見たとおり、音圧は傾き(ひずみ)に比例します:p = −ρ₀c² ∂u/∂x。なので「右側の傾きと左側の傾きが違う」ことは、「右側の圧力と左側の圧力が違う」ことと同じです。

これが「加速度 = c² × 曲がり具合」の中身です。曲がり具合は、第2章の「圧力の差が空気を押す」を、変位 u の言葉で言い直したものなのです。

数字で見る

正弦波 u = A sin kx では、∂²u/∂x² = −k²u となり、曲がり具合は変位と逆向きで、変位に比例します。1 kHz では k = 2π/0.343 ≈ 18.3 /m なので:

c2k2=118,000×335≈3.95×107 s−2=ω2=(2π×1000)2c^2 k^2 = 118{,}000 \times 335 \approx 3.95 \times 10^7\ \mathrm{s^{-2}} = \omega^2 = (2\pi \times 1000)^2

変位のピーク 0.55 μm を掛けると、加速度は約 21.7 m/s²。第2章で圧力勾配から求めた約 21 m/s² と一致します。2つの見方が同じ現象を表していることが、数字でも確かめられます。

2回微分 = 「隣の平均」との差

場所での2回微分は、差分で書くと次のようになります。

∂2u∂x2≈−[−u(x+Δx)+u(x)]+[−u(x)+u(x−Δx)]Δx2=2Δx2[u(x+Δx)+u(x−Δx)2−u(x)]\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \approx \frac{-[-u(x+\Delta x) + u(x)] + [-u(x) + u(x-\Delta x)]}{\Delta x^2} = \frac{2}{\Delta x^2}\left[\frac{u(x+\Delta x) + u(x-\Delta x)}{2} - u(x)\right]

角かっこの中は「左右の隣の平均 − 自分」です。つまり波動方程式は:

空気の各部分は、両隣の平均の位置に向かって引っ張られ、その引っ張りの強さは c² に比例する

という意味になります。

これはバネでつながったおもりの列とまったく同じ仕組みです。おもりが空気の重さ(ρ₀)、バネが空気の縮めにくさ(dp/dρ × ρ₀)に当たります。バネが強いほど、おもりが軽いほど、揺れは速く隣へ伝わります。

バネとおもりの列で見る「両隣の平均」への引っ張り
バネとおもりの列で見る「両隣の平均」への引っ張り

下段の白抜きの点が両隣の平均です。オレンジの点(自分)はいつもこの点に向かって引っ張られ、離れているほど強く加速します。山の頂上では下向きに、谷の底では上向きに引っ張られることも確認できます。

時間の2回微分と場所の2回微分が等しい意味

第6章で見たとおり、u = f(x − ct) なら「時間で微分」と「場所で微分」は c 倍の違いしかありません。形が速さ c でそのまま流れているので、ある地点で時間とともに見える変化と、ある瞬間に場所ごとに見える変化が、同じ形になるからです。オシロスコープで見る波形(時間軸)と、空間に広がる波の形(場所軸)が、左右反転して c 倍に引き伸ばされただけの関係になります。

まとめ:本質的に何を得たのか

得たものは「音の速さは、空気の硬さ(縮めにくさ)と重さ(慣性)の比だけで決まり、どんな音の形もその速さで崩れずに運ばれる」という事実です。音の物理に特別な法則は要らず、ニュートンの運動方程式と質量保存だけで説明できます。

4つの式で振り返ります。

  1. 力(運動方程式):圧力の差が空気を加速する
ρ0∂2u∂t2=−∂p∂x\rho_0 \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = -\frac{\partial p}{\partial x}
  1. 連続の式:変位の傾きが密度を変える
ρ=ρ0(1−∂u∂x)\rho = \rho_0 \left(1 - \frac{\partial u}{\partial x}\right)
  1. 状態方程式(断熱):密度の変化が圧力を変える。その比が音速の2乗
c2=dpdρ=γP0ρ0≈3432 (m/s)2c^2 = \frac{dp}{d\rho} = \frac{\gamma P_0}{\rho_0} \approx 343^2\ \mathrm{(m/s)^2}
  1. 波動方程式とその解:1〜3をチェーンルールでつなぐと得られ、解は左右に進む2つの形の和
∂2u∂t2=c2∂2u∂x2,u=f(x−ct)+g(x+ct)\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}, \qquad u = f(x - ct) + g(x + ct)

途中の近似(ρ ≈ ρ₀、dp/dρ を定数とみなす)は、音の揺らぎが大気に比べて10万分の1程度と小さいから成り立ちます。逆に、爆発音や衝撃波のように揺らぎが大きくなると近似が崩れ、波形は崩れていきます。

次の一歩としては、3次元に広げた波動方程式(球面波と距離による減衰)や、音響インピーダンス p/(∂u/∂t) = ρ₀c(空気で約 413 Pa·s/m)に進むと、スピーカーや部屋の音響につながります。